「サロン独立開業」カテゴリー第14回目です。
前回はペットホテルの原価率や売上など、お金のことについて希望の持てるお話を書きましたが、今回はその逆でペットホテルをする上でのリスクについて、実際に私が経験したお話を元に書かせていただこうと思います。
もう10年以上前、開業して3ヶ月目くらいの話になります。当時からペットホテルとペット託児サービスをご提供していましたが、このカテゴリー第1回目の「お家ペットホテル独立開業のススメ」にも書いたように、私たちはほぼ素人のサロン経営者でした。
素人は素人なりに、とにかく犬たちにストレスを与えないよう、お預かり中は楽しく過ごしてもらえるように、お店の中を自由に闊歩できる環境を作ることばかり考え、小さなカフェスペースのようなものも設け、プチドッグカフェのような雰囲気でお客様もくつろげ、その足元を犬たちが走り回っている、そんなお店でした。(現在とは随分違います)
いつものように数組のお客様がいらっしゃったと記憶していますが、別のお客様がお店に入って来るためにドアを開けた瞬間、その事件は起きました。託児でお預かりしていたチワワが、開いたドアの隙間から外へ逃げ出したのです。
今では到底考えられないことなのですが、当時弊店の店頭スペースには2重扉を設置していなかったのです。今は3重4重になっていますが、当時私たちの周りにフリーのペットホテルや託児をしている先輩も知り合いもおらず、つまり教えてもらうでもなくまったくの素人考え、自宅で犬たちと一緒にいる感覚でお店をしていたということです。話になりません。
話を戻します。お客様の叫び声でその事件に気付いた私はお店を飛び出し、その後を追いました。ところがその子は全力で歩道を走っていきます。私も全力で追いかけますが追いつくわけもありません。走りながら大声で歩行者の方に助けを求め、歩行者の方もつかまえようとしてくれるのですが、その子は見事に身をかわしながら走り抜けていきます。
その子は前方の信号を左折します。そこに歩道はなく片道1車線の車道になっていますが、たまたま車がいなかった車道の真ん中をその子はどんどん走り抜けていきます。そして次の信号、そこは国道176号線との交差点・・・やばい、だめだ、追いつかない・・・。
その時点で私との距離はすでに50mはあったと思います。しかも前方の信号は赤。その子は交差点に向かって一目散に走っていきます。万事休す。一瞬躊躇したかのように見えたその子は、一気に赤信号を駆け抜けて行きました。そして私はついにその子を見失ってしまったのです。
茫然自失。携帯電話も持たず飛び出してきた私は、近所をウロウロ探し回りましたが見つかるわけもなく、一旦お店に戻りすぐにお客様に電話を入れます。その時お客様がどういう風に言われたかも記憶にないほど慌てていた私ですが落ち込んでいる暇はありません。
お店で撮った写真ですぐに探し犬のチラシを作り、地域の電柱や掲示板に貼りながら夜中まで探して歩きましたが、その日は見つからず、祈るように過ごした夜が明けた早朝7時頃、チラシに書いていた私の携帯番号に知らない番号から着信が入りました。
「マンションの駐車場にチラシに載っているのとよく似たチワワがいる」
涙が出ました。すぐに飼い主さんへ連絡を入れ一緒に行ってもらいます。私が行ってまた逃げては元も子もありませんから。その駐車場で飼い主さんが名前を呼ぶと、飼い主さんの腕の中へ嬉しそうに飛び込んでいきました。
10年前の話ですが今も鮮明に覚えている大失敗談です。見つかってよかったという話ではありません。このような失敗がいつ起きてもおかしくないのが、ペットホテルという仕事なのです。
散歩中にリードが外れることだってあれば、首輪が抜けること、金具が壊れたりリードがちぎれる事だってあるのです。実際、散歩中にリードが外れ車道へ飛び出し車にひかれてしまう事故も起きていますし、送迎車ごと盗まれ複数の犬たちが行方不明になる事件が新聞に載ったのは記憶に新しいところです。
フリーでお預かりするスタイルというのはとても自然で楽しそうで、それなら安心だとつい思いがちですが、実は犬たちにとってはフリーであっても飼い主さんと離れた不安やストレスでいっぱいいっぱいになっていることも多いのです。
正しい専門知識を持って犬たちの様子を観察し性格を把握した上で対処しなければ、前例のような事故が起きる確率は格段に高くなりますし、相応の環境を整えることは経営者として当然の義務となります。
フリーでお預かりすることのリスクはそれだけではありません。犬たち同士の喧嘩、感染症による疾患などもそうです。それならいっそフリーではなくペットマンションでのお預かりの方が安心なのではないか、と思われるかもしれません。
それはそれで今度は過度のストレスにより引き起こされる下痢嘔吐からの食欲減退体力低下、またストレスから発症するアジソン病という死につながる疾患もあります。
怖いことばかり書きますが、命をお預かりするということはこれらのリスクを踏まえた上で責任を負うということなのです。命の責任は訴訟から裁判という別のリスクにも直結します。犬を預かるだけでお金になってなんだか楽そうだと、安易な気持ちで始められる仕事ではありません。
休みもありません。世間がお休みの時ほど忙しいのがこの仕事の特徴です。以前も書きましたが弊店でも1年365日でペットホテルの犬たちがいない日は1日あるかないか、つまり連休はもちろん満足な休みはほぼ取れません。そんなことは前述のリスクとは比べ物にならない微々たることですが。
長くなりました。前回予告していた集客についてのあれこれはまた次回。
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