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こんにちは、あんさんです。

ホテル開業セミナーではいつも冒頭にお話しさせていただきます「ペットホテル経営のリスク」について。(2015年3月に書いた記事の改訂版です。)

前回はペットホテルの原価率や売上など、お金のことについて希望の持てるお話を書きましたが、今回は逆。
ペットホテルをする上でのリスクについて、実際に私たちが経験した失態を元に書かせていただきます。

素人のサロン経営

 

13年前、開業して3ヶ月目くらいでした。

当時からペットホテルと託児サービスをご提供していましたが、私たちはほぼ素人のサロン経営者でした。

素人は素人なりに、とにかく犬たちにストレスを与えないように。
お預かり中は楽しく過ごしてもらえるように。
店の中を犬たちが自由に闊歩できる環境を作ることばかり考えていました。

小さなカフェスペースのようなものも設け、プチドッグカフェのような雰囲気でお客様もくつろげ、その足元を犬たちが走り回っている、そんな店でした。(現在とは随分違います)

甘い考え、起こるべくして起きた事故

 

カフェスペースには数組の常連様がいらっしゃいました。

そして新たなお客様がお店に入って来るためにドアを開けた瞬間、その事故は起きました。
託児でお預かりしていたチワワが、開いたドアの隙間から外へ逃げ出したのです。

今では到底考えられないことなのですが、当時弊店の店頭スペースには2重扉を設置していませんでした。
現在は4重になっています。
それくらいのガードでちょうどいいほどなのです。

当時は私たちの周りに”フリー”のペットホテルや託児をしている先輩も知り合いもいませんでした。
つまり教えてもらうでもなく、まったくの素人考えです。
自宅で犬たちと一緒にいる感覚で店をしていたということです。
話になりません。

緊迫の逃走劇

 

話を戻します。
お客様の叫び声でその事件に気付いた私は、大慌てで店を飛び出し、その後を追いました。
その子は止まるどころか、全力で歩道を走っていきます。
私も全力で追いかけますが追いつくわけもありません。

走りながら大声で歩行者の方に助けを求めました。
歩行者の方もつかまえようとしてくれるのですが、その子は見事に身をかわしながら逃げ続けます。

その子は前方の信号を左折しました。
そちらの道路に歩道はなく、片道1車線の車道になっています。
たまたま車が通っていなかった車道の真ん中を、その子は猛スピードで走り抜けていきます。

迫る国道176号線

 

そして次の信号、そこは国道176号線との交差点・・・やばい、だめだ、追いつかない・・・。

その時点で私との距離はすでに50m以上はあったと思います。
しかも前方の信号は赤。
その子は交差点に向かって一目散に走っていきます。

万事休す。
一瞬躊躇したかのように見えたその子は、奇跡的に車の間をすり抜け、一気に赤信号を駆け抜けて行きました。
そして私はついにその子を見失ってしまったのです。

嘆いているヒマはない

携帯電話も持たず飛び出してきた私は、近所をウロウロ探し回りましたが見つかるわけもありません。

一旦店に戻りすぐにお客様に電話を入れます。
その時お客様がどう言われたかも記憶にありません。
それほど慌てていた私ですが。落ち込んでいる暇はありませんでした。

店で撮った写真ですぐに”迷子犬”のチラシを作りました。
地域の電柱や掲示板に貼って行き、周りの店舗にもお願いして貼ってもらいます。
その日、夜中まで探して歩きましたが、とうとうその子は見つかりませんでした。

1本の電話、そして……

祈るように過ごした夜が明けた早朝7時前。

チラシに書いておいた私の携帯電話に知らない番号から着信が入りました。

「マンションの駐車場にチラシに載っているのとよく似たチワワがいる」

涙が出ました。
すぐに飼い主さんへ連絡を入れ一緒に行ってもらいます。
私が行ってまた逃げては元も子もありませんから。
そしてその子は、その駐車場で飼い主さんが名前を呼ぶと、飼い主さんの腕の中へ嬉しそうに飛び込んでいきました。

フリーであるが故のリスク

 

10年前の話ですが今も鮮明に覚えている大失敗談です。
見つかってよかったという話ではありません。
このような失敗がいつ起きてもおかしくないのが、ペットホテルという仕事なのです。

散歩中にリードが外れることだってあります。
首輪が抜けることも、金具が壊れたりリードがちぎれる事だってあるのです。
実際、散歩中にリードが外れ車道へ飛び出し車にひかれてしまう事故も起きていますし、送迎車ごと盗まれ複数の犬たちが行方不明になる事件が新聞に載ったのは記憶に新しいところです。

フリーでお預かりするスタイルというのはとても自然で楽しそうで、それなら安心だとつい思いがちです。
でも実は犬たちにとってはフリーであっても飼い主さんと離れた不安やストレスでいっぱいになっていることも多いのです。

正しい専門知識を持って犬たちの様子を観察し性格を把握した上で対処しなければ、前例のような事故が起きる確率は格段に高くなります。
また、相応の環境を整えることが経営者として当然の義務となります。

リスクはそれだけではない

フリーでお預かりすることのリスクはそれだけではありません。

犬たち同士の喧嘩、感染症による疾患などもそうです。
それならいっそフリーではなくペットマンションでのお預かりの方が安心なのではないか、と思われるかもしれません。

それはそれで今度は過度のストレスにより引き起こされる下痢嘔吐からの食欲減退体力低下や、ストレスから発症するアジソン病という死につながる疾患もあります。

怖いことばかり書きますが、命をお預かりするということはこれらのリスクを踏まえた上で責任を負うということなのです。
命の責任は訴訟から裁判という別のリスクにも直結します。
犬を預かるだけでお金になってなんだか楽そうだと、安易な気持ちで始められる仕事ではありません。

休めない仕事

休みもありません。

世間が休みの時ほど忙しいのがこの仕事の特徴です。
以前も書きましたが弊店でも1年365日でペットホテルの犬たちがいない日は1〜2日あるかないかです。
つまり連休はもちろん満足な休みが取れません。
そんなことは前述のリスクとは比べ物にならない微々たることですが。

つい長くなりました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
それにしても、まだ思い出すたびに胃が痛くなる。

どやさ。

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